時の角で
花氷
山に抱きしめられている街だと、
ふと気づく、(気づかされる、
朝の澄んだ空気のなか、
歴史の深呼吸をすると、
空気がこんなにも美味しくて、
旅で疲れた、身体が喜ぶ、
植え込みの木に張られた蜘蛛の巣も、
今朝の雨粒をいくつも、
坪庭のように抱えていて、
巣の裏から足音もなく出てきた、
凛々しい主人と目配せをする、
美福——Bifuku——という、
美しい名を持つ道と、
交差する押小路通を、
様々な国の観光客たちが、
城の、外堀に沿って歩いている、
(千本通の方を振り返れば、
(牛車が朱雀大路を行き交っている、
(唐車、檳榔毛車、青糸毛車、網代車、
(葵の葉——、
(遠く、糺の森の辺りに、微かに葵祭の気配がする、
(軋む音、九年半前の自分が橋の上で行列を見ている、
(牛車に飾られた、藤の花が揺蕩って、
(童歌のように消える、
下ろしたての、ニューバランスの靴を履いた、
呼吸の荒いランナーが、
幾層もの時の角にいる私の、
すぐ側を軽快に走り去ると、
ディキンソンの詩に出てきそうな、
一匹の気高い雀がこちらに気づいて、
ちいさな身体いっぱいに鳴く、
雀には雀の言葉があり、
空には空の言葉があり、
それをそのまま受け止めてみる、
(Jiratがにこやかに洗濯かごを持っている、
(Karinaたちと時代祭へ出かけて、皆で寒さに震える、
(Kimが夜、ドミトリーの前で誰かと電話をしている、
(会釈をし合う、(抹茶色の市バスが通り過ぎる、
(Muthitaがロビーでマンゴスチンのドライフルーツをくれる、
(斜向かいの部屋の、Francescoにはシェアラウンジで会う、
(手を挙げて挨拶をする、(小豆色の京都バスが通り過ぎる、
(コーヒーを片手に、ナッツとビスケットを両手に、
(Patrickと小話をする、何気ないような、
(二度と帰ってこないような、ハミング、
——あの時も、歩いていたよね、この川沿いを、
秋の予感に満ちた、お堀の水面を、
鴨の家族が四羽、五羽、と、
隊列を組んで進んでいく、
浮き草に、
一条の、
鴨たちの小路が造られたかと思えば、
緩やかに元通りになっていく、
山に抱かれて、
街は抱かれて、
私は抱かれて、
あなたに抱かれて、
今日、ここに暮らしている。
ふと気づく、(気づかされる、
朝の澄んだ空気のなか、
歴史の深呼吸をすると、
空気がこんなにも美味しくて、
旅で疲れた、身体が喜ぶ、
植え込みの木に張られた蜘蛛の巣も、
今朝の雨粒をいくつも、
坪庭のように抱えていて、
巣の裏から足音もなく出てきた、
凛々しい主人と目配せをする、
美福——Bifuku——という、
美しい名を持つ道と、
交差する押小路通を、
様々な国の観光客たちが、
城の、外堀に沿って歩いている、
(千本通の方を振り返れば、
(牛車が朱雀大路を行き交っている、
(唐車、檳榔毛車、青糸毛車、網代車、
(葵の葉——、
(遠く、糺の森の辺りに、微かに葵祭の気配がする、
(軋む音、九年半前の自分が橋の上で行列を見ている、
(牛車に飾られた、藤の花が揺蕩って、
(童歌のように消える、
下ろしたての、ニューバランスの靴を履いた、
呼吸の荒いランナーが、
幾層もの時の角にいる私の、
すぐ側を軽快に走り去ると、
ディキンソンの詩に出てきそうな、
一匹の気高い雀がこちらに気づいて、
ちいさな身体いっぱいに鳴く、
雀には雀の言葉があり、
空には空の言葉があり、
それをそのまま受け止めてみる、
(Jiratがにこやかに洗濯かごを持っている、
(Karinaたちと時代祭へ出かけて、皆で寒さに震える、
(Kimが夜、ドミトリーの前で誰かと電話をしている、
(会釈をし合う、(抹茶色の市バスが通り過ぎる、
(Muthitaがロビーでマンゴスチンのドライフルーツをくれる、
(斜向かいの部屋の、Francescoにはシェアラウンジで会う、
(手を挙げて挨拶をする、(小豆色の京都バスが通り過ぎる、
(コーヒーを片手に、ナッツとビスケットを両手に、
(Patrickと小話をする、何気ないような、
(二度と帰ってこないような、ハミング、
——あの時も、歩いていたよね、この川沿いを、
秋の予感に満ちた、お堀の水面を、
鴨の家族が四羽、五羽、と、
隊列を組んで進んでいく、
浮き草に、
一条の、
鴨たちの小路が造られたかと思えば、
緩やかに元通りになっていく、
山に抱かれて、
街は抱かれて、
私は抱かれて、
あなたに抱かれて、
今日、ここに暮らしている。
