六つの詩

林田盛雄

煌めく海

ド ド ド ド ドウ
ド ド ド ド ドウ
雲にひそんだ風に對應して
海潮が白髮を振り翳す

ほつほつほつほつほう
はつはつはつはつはあ

棧橋の蔭から

赤 白の頭が並んで海面にうねる

惱ましい
惱ましい
煌く海ょ
砂をあびる俺をどうする




異國の秋

ふと立ちどまつて
肩を並べて逍遙する
異國人の横顏を凝視した
やつぱり いけない


とは似ても似つかぬ
夕燒の感傷に
默默と步く放浪の秋の宵

日本
日本
日本
故鄕に憶ひをはせ乍ら
亂れ步調に
もどかしい外國語を交し
煙草の輪につくり笑を押し伏せて
無理に開きし幻想の袋を
其儘
並びて步く白哲人の顏色に叩きつける




破れ鏡

惡魔ょ    俺を責めるのか
三年の勞苦に鏡の裹は剝げ落ちた
だから   現實に破れた姿を繼いで
追憶の城を築くのだ

いつ迄も野牛は綠草を食つてゐる
暫く   私は夢を見る




血の想ひ

水瓜畑に重い靴を引き搘る
枯蔓に繫がつて靑い水畑が轉ろがつてゐる

私が憂欝な表情に重なり
秋陽に無愛相な沈默をしてゐる

エイッと
大きなのを目掛けて足蹴にする
私は錯裂した赤き塊片に瞑目してゐる




病みて

ニ時に疲勞を耐へる
くるしい!
瞳孔に白熱の巢籠りを壓へて
ミルク車の馬蹄は三時をうつ

寢れないのか!
四時の窓が薄ぼんやりと覗き肇める
ああ   ああ
心の闇に腕を蜿く




何處へ行く

魂が
雁になつて飛び去る
北はつめたい國
復と還り來ぬ

南無阿彌陀佛
南無阿彌陀怫

俺も人間だ
心はあわだつ
闇夜   寒夜に
身がぞつとする