平戸廉吉詩選

平戸廉吉


MINIMUM_MAXIMUM


私の手は一つ
私の呼吸は一つ
私の心は一つ

しかし 今夜
無限に
私の手は伸びる
私の呼吸は弾む
私の心はうちひろがる

何故?
月が出て
地と空の一線を
ものとこゝろの境を
彼方此方の遠近を
柔らかな手の纎手の中にたゝんだ

自然にかへれ――と哲人は云ふ
かゝる夢の時――と詩人は誦ふ

私の手は雲にとゞく
(............握手の急しさ!)

私の呼吸は物皆と解ける
そして私の心は
遂にあらゆるものゝ心

かくて 今
私の手は無數
私の呼吸は無數
私の心は無數





移住

太陽の水涸れ
銅色の太陽に
巨大な影
沙漠につづく

衣なく
念なく
日なく
群来る
(裸體に見る四肢の屈折と内接する意志の
                        彈性ある跳躍!)
跳躍のみ――

              窓へ
未知の光


               全世紀を通過する炬火

瀝青のカンデラブルム
振翳し行く

無限に
野は輝き
未聞の風に
炎 踊る
(シーザーの凱旋行列圖に見る跫音)
遠くの響――近く

過去と現在と未来の境を偸む

野の果に
若者の四體の活動にゆれ
圓柱の間に居並ぶ觀衆の面を染める
前へ
先驅者を
彼方野の果に動く炬火を追え!
深い陰は音へに埋れる





創造

わたしは一つの形にあこがれる――
わたしはその屈竟のものを摑まんために
眞赤な熔岩の流れに飛び込む。
刹那、
私は世にも敬虔な信者の姿をかりて
その眞正直なこゝろに牽かれて行く。
私大に急迫する律をもつて
わたしはわたしの信ずる方へと
その求心圓をたどつてすゝむ
そしてわたしは
巧みな調和から成る凝集點を
一つのもの誘導する。
刹那、
私は陽氣な踊子をして此處に踊らせる。
ずらりと諸君の前に並べて
しかも奇異な(と思はれる)舞踏を踊らせる。 





自畫像

     空虛な壺へ
     私の涙が落ちる
なき友の言葉のやうに
よい詩のこゝろのやうに
淋しい夜明の星のやうに
          明滅する燈芯の後に
日車の花が私を焦く
火の鳥が舞ふ
嵐が過ぎて
私は戀人を
虛空の中に睹る
なに?
          クラシシズム!
          ロマンテイシズム!
分裂――分裂――分裂
虛空の中で
見知らぬものが待つてゐる 





音信

丁字の匂ひ
火薬の匂ひ
オードコロンの匂ひ
皮膚の
小さい動物の匂ひ
333333333
      159603
23256====00003
V r r r r r r r ++××=×= 0
+++-+∀rrrrrrrrrrrrrrrrr+××
+×××+Vrrrrrrrrrrrrrrrrr+××
— — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — — —
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                             Tokio, Le 11 fevrier, 1922
                                   ma bien-aimée
アーナーターノースーガーターミーニーアーブーガー
トーマーツーテーヰールー
欝金香の花が温室に悩む
十二月の空は早い
一月の空は寒い
二月の空は虛しい
三月の空は
待てども――
あんなに遠い